REPORT (CATALYST BA)

[report] EDGE TOKYO DEEPEN Vol.1| PUBLIC DESIGN + CIVIC PRIDE + CREATIVE COMMUNITY(Catalyst BA 5th Anniversary Party)

分野   

Post : 2016.07.14
Permalink : https://catalyst-ba.com/archives/3843

2014年に終会したEDGE TOKYO1では、「新しい時代の価値探求」というテーマを様々な手法によって模索してきました。
そして2016年5月、満を持してキックオフされた新プロジェクトである「EDGE TOKYO DEEPEN:深考する都心周縁部」では、EDGE TOKYO1で行ってきた検証フェーズから実証フェーズへの転換を行うことを目的とした全5回のディスカッション・シリーズを開催していきます。

周縁都市として非常にポテンシャルが高く、変化の可能性に富んだ二子玉川のまちをモデルケースとしたプロジェクトということもあり、告知が始まってからすぐに参加希望者の問い合わせが急増し、イベント当日は100名を優に越え、熱気に包まれた夜となりました。


さらに今回のEDGE TOKYO DEEPENシリーズでは、トークセッション中にリアルタイムで創発されるアイディアや思考発話の内容を視覚的にわかりやすく伝えるグラフィックレコーディングを取り入れました。
充実したイベント当日の速報レポートとして、まずは実際に会場で描かれたグラフィックレコーディングを掲載いたします!


Photo by YUTARO YAMAGUCHI
http://www.yutaro-yamaguchi.com/

▶︎Tokyo Graphic Recorder
 (清水淳子 Junko Shimizu)





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(以下、詳細レポート)

対話・学習・共創などの場づくりの手法を応用し、まちづくりにフォーカスした仮説提言のための議論を繰り返した、EDGE TOKYO1。
新プロジェクト「EDGE TOKYO DEEPEN:深考する都心周縁部」は、二子玉川の街をモデルケースに、周縁都市としての魅力をより一層特徴づけるまちづくりのプロセスを、クリエイティブな視点を通して実証するという試みです。

第1回目の今回は、今回のシリーズで新たに迎えた企画監修者でもある馬場正尊氏(建築家/Open A ltd.代表)と伊藤香織氏(都市研究者/東京理科大学教授)、そしてCatalyst BAに併設するシェアオフィス、co-lab二子玉川の企画運営代表者である田中陽明氏(春蒔プロジェクト株式会社代表取締役)の3名のパネリストとして迎えたトークセッションを通して、「PUBLIC DESIGN × CIVIC PRIDE × CREATIVE COMMUNITY」、この三つの掛け算から何が生まれるのか?をテーマに、活発な議論が交わされました。

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今回はCatalyst BAの5周年も記念しているということで、まず初めに、モデレーターを務める白鳥奈緒美氏(東京急行電鉄株式会社 都市創造本部 開発事業部 事業計画部 課長)から乾杯を兼ねてご挨拶。

白鳥氏「二子玉川は都心から近い一方で豊かな自然があり、多様な人々が住んでいて、しかも住みながら働いている。そんな中で、Catalyst BAは企業と個人の距離が近く、企業人もまちの人も互いに一個人として二子玉川の未来をざっくばらんに話し合える、そんな場です」

そしてまずは馬場正尊氏から、そもそもPUBLICとは?ということについて、議論のコアとなるお話をいただきました。

馬場氏「昔は私有地でありながらみんなで使うこともできる、特に境界のない空間がたくさんありました。しかし、段々とプライベートとパブリックの間に境界が作られ、さらに現在の日本においては公共空間=PUBILICという概念はなく、行政が管理する場所という認識になってしまったために、硬直状態に陥ってしまいました。
 3.11の震災が起こった時、全てが流され土地の境界はなくなってしまいましたが、これまでとは違う新しい協力の形もできました。それを見て、プライベートとパブリックという両方の領域の中間の辺りに、幸せなPUBLICの領域が存在するのでは?と考えるようになりました」

日本ではこれまで完全に「商業エリア」「住専エリア」等エリアを分けたデザインをしていましたが、急成長が終わり緩やかな衰退期に入ったこれからの時代、これらは融合させることが必要だと考えられます。その境界を取り除く大事な要素として挙げられたのが「公共の場所は民間の手によって運営する」ということ。

馬場氏が手がけられた日本橋コレドの公開空地や道頓堀広場の事例、またニューヨークのブライアント・パークの再生など色々な実例についてお話いただきましたが、共通するのは、公共という場であっても民間の自由な営業活動を解放すると、場はどんどん活性化していくということでした。

馬場氏「そしてこの二子玉川について考えた時、市民力が高いから、公園や河川という環境を民間の恣意によって動かせるシステムを作れば新しいタイプのパブリックスペースができそうだし、また見事な水辺があるので、そこに何らかのちょっとした工夫ーー例えば板1枚あるだけで、水辺をもっと身近な環境にすることができるんじゃないかと思います」
など、様々な提言が。

二子玉川は都心でもない、田舎でもない、独特の中間帯。次世代のライフスタイルのルールがここから作られていけば、日本の象徴的な風景が二子玉川で生まれ始めるでしょう!と熱く語っていらっしゃいました。

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次はCIVIC PRIDEについて、伊藤香織氏よりお話いただきました。同氏は都市の性質についての分析を通して、豊かな都市を築くためのデザインについての研究をなさっています。研究のために都市を歩いて見て回られているそうですが、その数、なんと年間20都市!

まずはキーワードである、CIVIC PRIDE(シビックプライド)という言葉について。CIVIC PRIDEとは「都市に対する市民の誇り」のことで、まちをより良い場所にするために自ら進んで関わっていく、ある種の当事者意識に基づく自負心のことをそう呼ぶそうです。
とはいえ、突然「街に誇りを持とう!」と言われても、たいていの人は恐らくいまいちピンと来ないでしょう。そこで、まずは街と私の関係を築くことが大事だといいます。

まずは色々な街を見てみましょうということで、たくさんの事例をご紹介いただきました。Open House LondonThe Grand Rapids LipDub長野県小布施町のオープンガーデン、ライプツィヒの市民によるまちづくり運動など、どれもユニークなアイディアで、市民が、企業が、そして行政までもがシビックプライドを持って活動している様子が伺えます。

伊藤氏はこういった色々な事例を見ている中で、『まちと私の関係を共有する』というのが大事、ということに気がついたといいます。

伊藤氏「単に『私はこのまちが好きだ』と主張するだけでなく、共に体験することで誰もがその街のことをよく見るようになると、単なる愛着からシビックプライドのようなアイデンティティにつながっていくのではないか、と考えています。
 都心では当事者意識が芽生えづらいし、また田舎では、地縁血縁が強くてやりづらい面もあります。そんな中で、そのどちらでもない周縁部である二子玉川であれば、シビックプライドを持ちながら新しい社会を作っていく可能性があるのではないかと思います」

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最後はCREATIVE COMMUNITYについて、クリエイター専門のコラボレーション・シェアオフィスco-labの主催者である、春蒔プロジェクト株式会社の田中陽明氏よりお話をいただきました。

田中氏「co-labは、今から約10年程前頃に作られたクリエイター専門のシェアオフィスです。普段、CatalystBAの一部はco-labのシェアオフィスとしても機能しています。
 co-labでは『みんなで共存しながら集合知で考える』ということを主軸に置いています。一人の発想だけでなくいろんな個人の集まりで、大きな仕事をする。企業でもなく個人でもない、ちょうどその中間組織のような立ち位置で、インディペンデントなクリエイターたちのコミュニティーを形成しています」

純粋なアーティストタイプの人が日本の社会の中でクリエイティビティを発揮出来るような場所を作りたい、と語る田中氏。co-labでは、外部から依頼されるプロジェクトも一風変わっているといいます。

例えば、東京急行電鉄株式会社さんとの渋谷宮下町の開発プロジェクトでは、東京都によるコンペ案の作成段階から入札が決まった後も、ビルの設計デザインのできるco-labメンバーさんが関わっていらっしゃいます。そして設計が終わった後も、運営を任されるなど関係が続いている。これは様々な能力が集う、新しい集合体の形だからできることなのかもしれません。

その他にもコクヨ株式会社や横浜市文化観光協会とのプロジェクト、co-lab代官山やco-lab墨田の話をご紹介いただきましたが、共通するのは、一企業の一デザイナーに対して単純に「これを作って」と言うのではなく、クリエイターの集合知の中に「?」を投げかけると、いつも面白い反応が起きるということ。
こういうクリエイターの集合知で、二子玉川のポテンシャルを引き出していくことができればと仰っていました。

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ここで一度休憩を挟み、少しまとめのお話。

今あるまちづくりの活動はどうしてもボトムアップのイメージが強いけれども、一部のクリエイティブ層がとにかく突き進むことでみんなの意識を高める、そういうトップアップ型の活動がこれからは大事。
そんな中で現在の周縁都市の開発状況について考えた時、都心は都心で都市開発が進み、地方は地方創生が謳われて久しいなかで、周縁部はあまり積極的に手をつけられないまま来ています。しかし実は周縁部に住んでいる人も都心でクリエイティブな仕事に携わっていることが多く、これからはそういった人たちが住んでいる土地でもクリエイティビティを発揮できるような環境になっていければ、と発言する白鳥氏。

それに対し、都心、郊外、周縁という分け方ではなく、それぞれのまちのキャラクターは何なのかというのを可視化し、もっと掘り下げていくべき。また、そのまちに住んでいる住民が単に住民としてまちづくりに参加するのではなく、職能を持っている住民たちが自らが主体となってまちを作っていく。仕事を持っている私でもあり、住民でもある私というところがはっきり分かれないような参加の仕方があると思う、と伊藤氏が仰っていました。

そして、ここからいよいよ本日の本題である、PUBLIC DESIGN× CIVIC PRIDE× CREATIVE COMMUNITYについての議論を深める時間に。
まずはPUBLIC DESIGN × CIVIC PRIDEについて。

CIVIC PRIDEは個人の気持ちで終わらせるのではなく、それを共有することによってまちの気分になっていく、そういう場が真のパブリックスペース。そして、共有するためには具現化することによって実際の空間や体験としてシェアすることが必要で、それがPUBLIC DESIGNの仕事だと思う、と伊藤氏。また馬場氏も、大きいストラクチャーは大企業や行政が作り、その中で豊かな空間を形成していくのは小さい企業や個人、市民という形になっていくのが良いのではないかと仰っていました。そして、市民がまちづくりに関わる機会をいかにデザインしていくかが重要だと思う、とも。

次にCIVIC PRIDE × CREATIVE COMMUNITYについて…ですが、ここで、伊藤氏より田中氏へ質問が。
伊藤氏「CRATIVE COMMUNITYとは、みんながクリエイティブに生きられるまちのことを指す一方で、誰もがクリエイターでみんなで考えた結果というのが、必ずしもクオリティの高いものができるとは限らないという懸念があるんですが…そこらへんはどう思われますか?」

それに対しては、「いわゆるクリエイターといわれる仕事ではない、士業や企画職でもクリエイティブでありうる。また、やはり職業としてのクリエイターは不滅だと思うので、プロが核にいて全体を引っ張っていくというのがいいと思う」と田中氏。

最後にPUBLIC DESIGN × CREATIVE COMMUNITYについて。
なんとなく無意識下でデザインのセオリーが分かっている、そういうクリエイターの思考をどんどん活用してパブリックスペースのルールを決めていってもいいように思う、と田中氏。

クリエイターは専門的でありながらも実験的なことをする傾向にある、色々と攻めることができる。それをパブリックマインドの強い企業や行政がうまくマネジメントすることによって適度なところに着地させることができるのではないか、と馬場氏。

また伊藤氏は、実験性は確かに重要。一時的だからこそできることがたくさんある。ただ、社会実験が単なる社会実験で終わってしまうということが日本は多く、その実験結果をどうやって恒常的な場にフィードバックしていくのかが大事だと思う、と仰っていました。

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ここからは会場の皆さんからの意見も交えて話が進みましたが、やはり多くの人々が、すでに二子玉川が持っているポテンシャルに大きな可能性を感じているということがよく分かる内容でした。皆さん先を争うように手を挙げられていて、通常のトークイベントとは様相が異なる熱い雰囲気に思わず圧倒されました。

最後に、会場でグラフィックレコーディングをされていた清水さんに会全体を振り返っていただきました。

二子玉川というまちが、今問われているんじゃないかと思う。伊藤先生が仰ったように、まちにはそれぞれキャラクターというものがあって、そこに東急さんのような開発事業者が絡んだ時に、まちの特性をどう生かして開発し、どう育てて、どう価値を高めていくといいのか。住みたいまちにするのか、住みやすいまちにするのか。一体何がゴールなのか。そう考えた時、PUBLIC DESIGN × CIVIC PRIDE として思いや関係を共有する方法、そしてそれを実践する場、そこをつなげるデザインをする。その際に活躍するのが、CREATIVE COMMUNITYのような専門的な人たちで、この三者で良いまちという定義をみんなで作っていくのがいいのではないか。デリケートだけれどとても楽しそうだと思う。

…という素晴らしいまとめで、会は締めくくられました!

そして、今後の展開について。
今回のEDGE TOKYOシリーズは、毎回テーマを持ちつつ、1年半をかけて5回くらいで展開していくそうです。
次回はアートを絡めようと思っていて、どこか外で開催する予定とのこと。ぜひチェックしてみてください。

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