[report] EDGE TOKYO DRINKS 06 -「公共」を創る –
分野 EDGE TOKYO ソーシャル デザイン 地域
Post : 2013.07.03
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EDGE TOKYO DRINKS 06は『公共を創る』というテーマで、ふたりのゲストを迎えて開催されました。
建築プロデューサーで株式会社トーンアンドマター代表の広瀬郁さんと、一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事の木下斉さんです。おふたりは『まちづくりデッドライン』(日経BP)の共著者でもあり、今回はこれから必要な「公共」の捉え方と、創り方のヒントとなるような話題を、様々な事例を交えてお話しいただきました。街や公共づくりの実践者として、非常に現実的なアイデア、先進事例やこれからの課題などについて、非常に真面目にそして大胆に語っていただきました。
※今回のEDGE TOKYO DRINKSは新たな取組みとして、東京都市大学メディア情報学部社会メディア学科 岡部大介研究室の協力で、スクライビングによるイベントの記録とリアルタイムパブリッシングを実施しました。イベント終了時にはイベントのサマリーがPDFの冊子となって、ダウンロード出来る仕組みです。イベント中も常にスクライビングされたキーワードやテキスト、イラストなどが、リアルタイムで会場内に映し出されていました。
PDFのダウンロードはこちら→http://riecafe.com/20130719_EdgeTokyo.pdf
広瀬:商店街は公共施設じゃないんじゃないの?と思われるかもしれないけれど、そんなことはありません。「公共」とは、私(private)や個(individual)に対置される概念で、英語のパブリック(public)を訳した言葉です。国家や地方自治体だけでなく、個々の市民がネットワークを結んで何かをやるというのも公共ということになります。
木下:公共って基本的にシェアだと思っていて。単独で整備することが不可能なことに対して、全員で金を出し合って作るということ。昔「税金って何?」という授業受けたことありませんか?ある村で橋が必要な時に、村人がみんなで金を出し合って橋を架ける。これが税金の使い方なんです、と。このように公共のサービスはシェアから成り立っているのです。
いつも言っているのは、ぼくらの生活はマーケットと政治・行政のサンドイッチの中で成り立っている。産業があってマーケットから得られたお金に応じて、公共サービスなどにお金を出す。いっぱいお金が入ってくるひとはいっぱい出す、余りない人はそれなりの負担でやる。ただし公共においては、共通したサービスを分け隔てなく、だれもが同じように受けられるようになっている。
公共サービスについてはいつも議論になるんですが。公共の話だけしていても成立しないんです。産業やマーケットがあって公共がある。ない袖はふれないんです。権利を主張しても、ない資源を配ることはできないです。ここをしっかり捉えないといけない。
日本は非常に幸いにして戦後の高度成長含めてうまく作用し、全世界から富を集めることに成功したので、国内においては公共サービスを常に大きくすることができました。それが今後逆転して、シェアするもともとの人が少なくなってくる、産業自体の基盤もどんどん希薄化していくということに対して、我々は考えないといけない。都市によっては人口が半減したり、三分の一になるようなところもある中で、公共サービスもふくめていかにこのサンドイッチ構造を維持していくのかが問われていると思っています。
広瀬:公共性を3つの意味に分けて見ると。
Official、Common、Openというのがあるが、木下くんの言ってる共通基盤側(公共サービス)というのは、ここでいうOfficialだと思うんです。なぜか日本で「公共」というと、公務員が行う活動と思われがちです。
これから議論するのは、きっとCommonというところ、ものごとの捉え方から公共を豊かにしていこうという、お金だけでなく、色々な意味で活用できるところは活用しようという市場側にも働きかけられるような取組みを作っていけるような話をしていければと思います。
木下:地域再生や公共の在り方について、我々はいつも取り組んでいるんですが、再分配されるパイが減少する中で「あるべき論」を振りかざしてもどうにもならなくなってくる。今日奇しくもデトロイトが破綻しましたが、役所もつぶれる時代になっているのです。破綻してもべつに人々は生活をするのですが、公共サービスのクオリティはめちゃくちゃ下がります。極力それをしないためには、官民含めてどう公共を支えていくのか、という考え方をしないといけない。市場のパワーを公共サービスに使っていく、行政が市場をどうサポートできるのか、ということをお互いに考えないと生活を維持出来なくなっている、ということを認識しています。
そうすると、民間資産をどう解放するか、行政管理資産をどう解放するか、という両面で考えないといけないのです。ここが極めて重要なところで、権利主張するひとたちは行政を突き上げて「解放しろと」とだけ言います。ではなくて、我々のもっている固有資産も使わないものはいっぱいあるのです。街の中心部にある建物の床面積のだいたい15%は空いています。空き地もたくさんあります。民間資産もどう使っていくかということも要求されますし、衰退したから役所にどうにかしてくれと言っている場合でもない。そこを双方どうするかというのがテーマで、市場の力を公共に活かしていくことも必要だし、公共の力も市場に活かしていくという、双方を繋ぎ止めてやっていくのが必要だなと思っています。
広瀬:それではいくつか事例を紹介していきたいと思います。
<HIGH LINE:ニュヨーク>
廃線高架の有効活用で民間開発のインフラにもなっています。
高架の上なので視点が高く街の景観を楽しみながら長く居座れたり、変化を楽しめる場所になっていて、また移動のしにくかったミートマーケットとチェルシーを繋いでいるので、みんなに愛されています。もともと市民運動からはじまったプロジェクトなので、ランドスケープの維持にかなりのボランティアが参加していますね。マンハッタンには自分の庭はもてないので、みんなの庭になるわけで、まさにシェアです。
年次の計画では植物ー昆虫ー小鳥というように生態系を作っていこうという大きなビジョンで作られています。線路を残したデザインになっていたり、ほんとに楽しい場所で、文化的なインフラにもなっている。計画自体、市民が楽しむためのビジョンを示していて、そこから逆説して公共空間が作られているというすばらしい事例です。
木下:日本ではちょうど2年前に都市再生整備基本計画を出すと、道路法とかの規制緩和ができて、札幌の大通りでやったりしてます。新宿でも4番街という場所にオープンカフェや映画プレミアムなどに使うケースが出て来ている。しかしそこまでファンキーにはなれない、やっちゃいけないことをようやくやれるようになりましたというレベルで、しびれるほどかというとそこまでではない。
広瀬:札幌は街ができた歴史が短いせいか、オープン度は高い感覚はあります。
大通り公園を全部ビアガーデンにしてしまったり、警察が協力して中央通りの交差点を封鎖して、こどもたちが路上にペインティングするということをやっている。こういうことはまだまだ東京ではできないですね。
木下:札幌大通りビアガーデンには是非行っていただきたい。東京のビアガーデンがいかに過酷な環境で呑んでいるかということがよくわかります(笑)。さっぽろは涼しくて、ほんとにいい環境です。
広瀬:つづいて。<Madison Square Park:ニュヨーク>
この公園内にShake Shackというハンバーガー屋さんがあります。もともと屋台だったんですが、すごく流行ってしまって「じゃあいいよ」ということで、でっかいハンバーガー屋さんを公園の真ん中に作ってしまったという。収益の一部を公園の維持管理に使われるということだったり、もともと暗かったところが夜も賑やかになるので、治安にも貢献しています。あとマジソンスクエアガーデンでのキッズプログラムの資金源になっていたり。こういうことをやりたいですね。こういうエリアマネジメントはマンハッタン進んでますよね。
木下:進んでますね。ディスリクトマネジメントという概念があるのですが。
市全体を一気に再生しましょうというのは無理なので、いくつかの街区をつくって、それぞれにマネージャや会社を作って、地元の地権者達が事業再生を果たしていくということが行われています。アメリカの有名な場所はほとんどBID[Business Improvement District]という、ディストリクトマネジメントの特区を作って、地元の地権者達が金を出し合って再生プロジェクトを行っています。これは第2の自治体と呼ばれていて、普通に固定資産税に上乗せして負担金を払っています。その背景には、70~80年代に役所が街づくりに金を出している余裕がないという事態に陥っていたとき、住んでる人や資産を持っている人は共同で金を出し合って、治安維持をやったり、マーケティングをやって新しい人に来てもらったりする活動をはじめた、ということがあります。その代表的なものが、1993年に組成されたTimes Square Allianceです。年間予算で当時12−13億円のお金を地権者で出し合って再生しました。現在マンハッタンだけでこのBIDは20を超えていて、ひとつのエリアに複数の会社を作って互いに競争をして価値を生み出しています。
今までは税金を納めていれば、勝手に全部やってもらえると思っていたのが、地域やエリア固有の課題に対しては、更に共有するお金を拠出してやらないと、生活そのものが成り立たなくなることもあり得る、というのがこれから我々が直面する課題のひとつです。ニューヨーク市にしてもサービスはやっているんですよ。それでも問題があるんです。そこをさらに解決するには、自分たちでやるしかないということになるのです。
広瀬:次はミュンスターのアートのイベントです。
<Skulptur Projekte:ミュンスター>
10年に一回開かれる街の中で行われる彫刻展です。お金をかけてキュレーションには有名な方が入って、公共の空間を使って、様々な作品を集めて気合いをいれて開催します。このプロジェクトに対してメルセデスベンツが自転車を提供して、sculptourというレンタサイクルサービスをやったりします。それぐらい街に対して企業も参画して10年に一度のイベントを盛り上げていきます。ヨーロッパ中の修学旅行生がいっぱいいたりしますし、世界中から人がやってきます。地図を持ってとにかく街の中を歩き回るという、ほんとうに街の至る所を使って開催する一大イベントですね。
木下:僕は触っちゃいけない芸術は大嫌いなんです。もっと皆が楽しめる、街が楽しいと思える空間にいかにもっていくかということと、どうパブリックを形成していくかということと、双方あるわけです。ただパブリックの話になると急に襟を正してまじめにやりはじめるわけです。それもよくないんです。馬鹿げたかしこまった考え方をするんで、どんどんやっちゃいけないことがいっぱい出てくるんです。せっかく公園つくって芝生があるのに、養生しているんで入らないでください、というのとかあるわけです。そういうのを見ると、なんのために芝生作ってるんだと。そういう話がいっぱいあるんですよ。そういうのは使ってなんぼなんです。我々の生活や時間を豊かにするためには。あれをやっちゃだめ、これをやっちゃだめということじゃなくて、触れたり使えたりそういうのが生活の中にあるというのが、ほんとの文化性だと思うんです。
広瀬:ここで日本の事例を紹介します。
<武蔵野プレイス:武蔵野市>
感動したのはこの地下です。ティーンズスタジオというのがありまして、ここは「10代以外お断り」と書いてあります。最高じゃないですか。ほんとうにガヤガヤめちゃくちゃうるさい。これは大人が考えないといけないことだと思います。ここにはほんとうの大人がいたんだなと思いました。
スタジオもあります。ふだんやりにくいことをやらせてあげようということですね。卓球台もボルダリングもあります。そして当然鏡があってダンスの練習をしています。カップラーメンとかも食べていいんです。カップラーメンのお湯はここを運営しているNPOの人が渡してあげるんですよ。そのとき挨拶するんですね。
ウチの息子は10歳になったばかりですけど、連れて行ったら感動しまくってましたね。こんなすげー場所があるんだと。僕の時代にはなんとなくこういうのあったんですよね。地区センターみたいな。それがだんだん無くなっていって、あったとしてもこれするな、あれするなと貼ってあって何もやることがないという。だからここは最近の事例ではほんとうによく考えられているなと。メインの機能は図書館なんで、ちゃんと図書室があって、子供の頃に読むべき本というのがセレクトされています。こういう寛容性というのは街の中でとても重要で、これから街を担って税金を納めて、僕たちが老人になったときに食わせてくれる人に対してどうしてやさしくしないのかというのは、僕の中の課題ですね。
木下:すごく重要だと思いますね。僕は15年くらい前から街の仕事をさせてもらってるんですけど。その頃学生だったんで、夏休みとか全国の商店街にでっち奉公の旅というのをしていたんです。いろんなお店に住み込みで2週間とかお手伝いにいくんですけど。戦争から還ってきて商売はじめた先代の人たちがまだ生きてまして、優雅に余生を送ってました。そういう人に話を聞くと、いろんなことを若い人にやらせるんですね。自分が金を出したりして。この場所どうにかしろ、というようなことも得も言われぬ圧力で市長に迫ったりして、やっちゃいけないこともやれちゃったりしていたんです。それがみんなだいぶ真面目になってしまって、突拍子もないことや、面白いことに対して、力を割いてくれるひとがどんどん少なくなってしまっている。道路とか公共施設の利用とか、ほんとうはもっと面白く作れる余地っていうというのはあるはずなんです。でも提案しないで、まじめに作ってしまうとほとんどできないですね。
岩手県紫波町にオガールプロジェクトというのがあります。ここは公共施設として図書館をつくったんですが、カフェも併設していて、そこでワインを買って図書館に入って全然OKなんです。実はこの施設を普通の公共建築として作ったら、37000人くらいしかいない町民では維持出来ないんですが。たとえば図書館や隣にあるサッカー場といった公共施設にはたくさん人が集まるので、その人たちを相手に周辺に民間施設をつくって、そこで商売してもらうんです。それで家賃や管理費を戻してもらうことで、公共施設を維持するための費用を最小限の税で維持しようという連携の仕方をとっています。行政は行政、民間は民間という区分ではなく、どうせ行政に人が集まるんだったら、その前で商売してもらえばいい。うまくやるとビジネスになることはいっぱいあるんですね。
このプロジェクトは紫波町の連携する組織=横断組織で設立をしました。それでいまは盛岡含めて周辺からいっぱい人がくるんです。酒飲むおっさんが集まってる訳ではなくて、地元の小中学生が学習に来たりするわけです。こういうものをいかに創るのかということに関しては、従来の考え方からもっと飛躍してやれることはあるんじゃないかなと思うんです。しかも限りある税負担を軽減するというビジネスモデルを組み立てながらやることも、当然ながらできるわけです。
私も大学の時の専攻が政治学科だったんですが、行政学とか政治学とかそれしか学ばないんです。それで新卒で役所に入ってしまうと、それしか考えないわけです。逆に民間にいくと行政とは離れたところでやってしまうんです。これから重要なのはクロスオーバー。それは横断しながら、先ほど紹介したサンドイッチ構造の中で良好な生活をつくっていくことをお互いに考えないと、今のような発想は出てこないのです。
公共施設つくるとなると、普通は地元の弱い人に貸そうというようになるわけですが、無いパイは配れない訳です。もちろん分配の中で社会的弱者の方をサポートすることも公共の役割ですが。このオガールプロジェクトの用地は東北本線の紫波中央駅という駅前なのですが、そこに弱い人たちの住宅を建てるのではなくて、ここはしっかり固定資産税含めて街の税収につながる施設を作ったり、公共負担を軽減して、その分の財源で社会的弱者をサポートしようというコンセプトで町長も決断されて実施さました。何でもかんでもないところから配りましょうというのでは、行き着くところは財政破綻です。ちゃんと稼ぎながらいかにサポートするか。稼げばいいというわけではないが、ただ稼ぎがなければ配ることもできないということを意識しながらの公共サービスというのが、いま非常に重要視されています。従来は配ることの専門家、稼ぐことの専門家というのがあったのが、両面で必要とされているのです。
広瀬:ここにはどんな民間施設が入っているんですか?
木下:カフェ、クリニック、居酒屋、物販など。
居酒屋は盛岡で一番流行っている居酒屋です。そこの創業者が毎日出て来て店を切り盛りしています。ここは1500円払うと地酒飲み放題なんですよ。お魚もめっちゃうまい。ほんとにいいんですよ。もちろんナショナルチェーンではなくて、地元のインディペンデントな居酒屋です。地元を活性化するには、地元の最強の経営者チームで、こういう公共と民間施設を運営する。そうすると地元の人たちがみんなハッピーになれる。ここだけで50人以上の雇用者が生まれています。
あとここには産直施設があるんですが、紫波町は農業生産高が高い地域で、周辺にももともと7カ所くらい産直施設あるんです。当初その周辺施設は収益/集客が減るんじゃないかと心配していました。しかしオガールプロジェクトの戦略というのは、紫波町の人を集めるのも然ることながら、紫波町を中心に半径30Kmで切った商圏にいる70万人をターゲットとしいます。盛岡経済圏と花巻経済圏の真ん中にあるからですが、この両方の商圏から引っ張るという施設計画を立てているので、これがほんとうにそうなりまして。その結果、周辺の産直施設も昨年度比で10%以上延びているため、みんな心配しなくなったという実態があります。それくらいマーケットのパワーを活かした公共投資をやることで、地元が豊かになる実例が出て来ている。もっとマーケットをサポートすることで出来ることもあるんだということを認識しないと、黙っててもお金が降って来て、配れるという時代ではなくなって来ているのです。
<第2の自治体>
山形の鶴岡って行ったことありますか?何が有名かというと、ここはむかし人面魚ってのが出たとこなんです(笑)
実は生活協同組合のグループ購買を戦後はじめてつくったのが鶴岡なんです。昭和30年代あたまに新潟沖で地震が発生して、鶴岡にも義援金が集まりました。その余ったお金をベースに医療生協という地元の人たちが加盟する病院をつくったんです。おもしろいのは医療生協や高齢者施設含めて、また生協や購買をやっている組織を束ねて、庄内街づくり協同組合「虹」という会社をつくりました。ここは世帯加入率が地元で8割を超えていて、ほとんどの人がはいってます。だから第2の自治体のようなものです。社会保障含めて、国が保障してくれてる制度で入ってくるお金を、できるだけ地元で意味あるお金として使おうというのがありまして。ここは組織で病院の先生を雇用して、出てくる利益をもとに、国民年金で生活している人でも、いかなる障害を負っても最後まで面倒をみようということを目標にしてやっているグループなんです。要するに儲かったお金を、普通の料率ではサポートできない人のために再分配するという仕組みを、民間側のみんなのシェアする組織で担保するという事業をやっているところです。もともとクリニックを営んでいた先生が廃業するからと寄贈された建物を、高齢者の住宅としてリノベーションされて活用されていたり、使わないものを地元の人で共有することで、困っている人に使ってもらおうというケースでもあります。緊急オペなど必要なものは市立病院などに入るんですが、その後リハビリテーションなどを医療生協で受けるというような役割分担ができているんです。これから急速に高齢化が進んでいきます。実は東京都内でもこれからさまざまなエリアで、シェアして、サービスを共有化して、従来の制度だけではできないところを穴埋めしながらバランスさせるという仕組みにニーズがあると思っています。
急に鶴岡からリバプールいきますけど。
もっと大きな都市再生とか、日本ではどうしても国に陳情してどうにかしてくださいとかやるんですが、そこがやりきれなくなってくると、民間含めてみんなでやりましょうということになる。リバプールでは「LIVERPOOL VISION」という官民の共同ファンドとディべロッパーを組成しています。産業革命のころ貿易港として栄えた街ですが、その後没落して20年くらい前にはイギリスで一番まずしいスラムが形成されるというくらい落ち込みました。そこを再生しようということで、地元で事業に成功した人とかみんなでファンドを組んで、当時世界中にあった人の繋がりを利用して、再生計画を立てて、民間でも全世界から資金調達をやりました。ワンラウンドだいたい2000億円くらいの規模の資金調達をして、港湾部分の再生をずっとやっています。このファーストラウンドがうまくいったので、今セカンドラウンドに入っています。だいたい3,000〜4,000億円をターゲットに資金調達と再生計画を進めています。黙ってても地元がだめになってしまうから、自分たちでやらなくてはいけないということで、こういう動きをしているところもあるのです。サービス部分もあれば、都市のハードの部分の事例もありますが、要は任せていてはいけないということです。
広瀬:ここで、どうすればもっと楽しいことができるかな、という話をしていきたいんですが。
当然、空間でもサービスでも公共の場合は開発のフェーズと運営のフェーズがあると思うんです。ここにはいつだって断絶が起きていて、特に公共空間、公共施設では後の運営の部分で破綻することが多いのは、皆さんよくご存知のことと思います。やっぱりビジョンをもって、あるべき論からスタートして、こんな環境になってたらいい、こんな風に使ってたらいいとか、ビジョンから逆算して開発をかけないといけないんですよね。これはフィージビリティだけの問題じゃないんです。どんな公共空間があったらいいという話がもっと明確になければいけないと思うんです。これを住民参加型でできるっていう意見もあるんですが、ぼくはちがうかなと思っています。なぜかというと住民参加型のほとんどのプロセスは開発のなかの部分最適化だと思っていて。ビジョンを立てるのは、見地をもったそんなに多くない人たちで、ほんとに頭を悩ませてつくるべきだと思うんですよ。日本に欠けているのはそれで、みんなで決めれば良くなるみたいな、そんなことは絶対ないと思います。
木下:ほんとに街の人が全員、互いの影響性が無い中で関与すれば、人類の叡智はあると思うんですね。ただワークショップとか、大嫌いなんですよ(笑)要は地元でヒマな人が集まって、限りある人が議論して納得したものが正解ですか?という話です。せっかく選挙とかやっているのに、そこにさらにフィルタリングかけている。ほとんどはサイレントマジョリティです。わざわざそんなところに行けないし、言うこともないけれども、いろいろ思っている人はたくさんいる。そこの声に耳を傾けないで、ほんとに良い街ができるかというと、そういうわけではない。これはコーディネートしている人たちのビジネスモデルです。全国で山ほどありますよ、それでつくった施設が破綻しまくっています。つくる前に来てくれって言うんですけど、みんな破綻してからウチに相談にくるんです。病気に来る前に患者さん来ないのと一緒で、病気になってから来られるんですね。
重要なのは合意することではないんです。地元の人と合意することも大事なことなんですが、合意したからといって何でもありかというと、そんなことないんです。線をひかなきゃいけないラインがある。それは先ほどから言っているサンドイッチです。稼げるものと、提供できるもののバランスをいかにするかというマネジメントを無視して、なんでもくれくれっていう話とか、こうあるべきだ、といってもそこに数字がないんです。様々な要望がある中でそれを形にしたときに、今ある財源の中でほんとにできるのか。それを考えなかったら、瞬間的にやりはじめてもすぐ破綻するんです。だから運営部分のリアリティを持った上で、開発をやらなくていけないわけですが。従来の仕組みではまず予算があって開発をしてから「つくりました、さあ運営する人来て下さい」というやり方なんです。そうするとそんな予算では運営できませんとなって破綻してしまうわけです。
広瀬:民間ではあまりないですよね。僕はホテルをやることが多いんですが、内容決めずにホテルを作ることっていうのはちょっと有り得ないです。
開発と運営にはそれぞれ規制がかかってくるわけですが、これはしょうがない部分もありながら、もっと考え方を変えないといけない。
木下:必要なのは規制じゃなくて、マーケットとかサービスの必要性とか財政の規模に対して、運営が成り立つ中での開発をどうやるのか、そこの成長をどうデザインするかが今必要とされています。
広瀬:公園とかで遊具が減っていくという話があるじゃないですか。ウチのこどもが指挟んだというようなものすごいうるさい人がいると、役所も対応しなきゃいけない。でも99%の人はその場にいないのに、いつの間にか遊具がなくなっているという。それがサイレントマジョリティーです。川とかももっと楽しみたいですよね。そういうパワーをもっと結集していかないと、このままでは税金使ってなんにもない場所をつくることが公共空間ということになってしまう。
木下:僕はいつもイライラしているんですよ。やっちゃいけないというのがいっぱいあり過ぎて。
「やるな」っていう人が役所に電話して、担当者を2時間とか拘束することがあるんです。サイレントであるというのは、公共というみんなで負担しながらやっているサービスがどんどん狭くなっていくということを野放しにしているということなんです。行政から提供されるだけではなくて、行政の人たちも含めて、全体で我々が享受するものをどう運用していくのかということをしっかり考えないと、黙ってればいいものが来るという話ではないんです。批判的な言い方をしてますけど、こうしたら良いんじゃないかという話を一緒にしているから我々は仕事になっているわけで、それをやって批判する人があれば、真っ向議論するべきなんですよ。それがなかったら、どんどんやっちゃいけないことばかりが増えていくんです。
広瀬:ビジョンのあるべき論から逆算した形で、規制の緩和と本当の意味での合意形成が重要になってくると思います。サイレントマジョリティーの意見もちゃんと反映されたかたちで。もう一方で開発の話もあるんですが、そこまで大規模なことができなくても、運営のフェイズでもできることはあります。マジソンスクエアパークのハンバーガー屋の話でもそうです。一店舗出しただけで、ああなるんです。だからほとんど運営の話なんですね。でも今の日本ではまず許可できない。それはすごくもったいない。いろいろあるのは分かりますが、いろいろあることと、もっといいことがあるということの天秤なんです。なんでも事なかれではなくて、良いルールを作っていくことが大事ではないでしょうか。
[カタリストBA主任/ナカヤス]
以下、告知情報
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みなさんが「公共」という言葉を聞いたとき、何を思い浮かべるでしょうか?
社会制度、交通機関その他移動に関わる物事、福祉など人々が生きる上で必要なルールも「公共」です。また歴史や文化、その地域ならではの風習、自然環境も「公共の」財産といえるのではないでしょうか。
例えばEDGE TOKYOの開催される二子玉川という街を例に挙げてみると、複合開発が進んだ結果の「公開空地」や建物としての「公共空間」に加え、恵まれた自然環境(多摩川とその周辺の緑地や、国分寺崖線の自然景観など)があります。
昨今では「新しい公共」を標榜する政策が施行されたり、全国各地で商店街、農漁村、都市空間を問わずさまざまな「まちづくり活動」が展開されるなど、捉え方や使い方によってさまざまな意味を持つ「公共」が存在しています。
そうした状況にあって「自ら新しい公共を創る」という発想は、これからのまちづくりや、これまでの「公共」を捉え直すためにも必要不可欠な視点なのです。
今回のEDGE TOKYO DRINKSでは、国内/海外の豊富な事例を紹介しながら、公共空間の新しい使いこなし方や、運営・ルールのあり方などにフォーカスし「公共とは何か」「今を生きる自分達が公共をどう創っていくべきなのか」についてのアイデアをシェアします。ゲストには近著『まちづくり:デッドライン』が話題の広瀬郁・木下斉の両氏を迎え、参加者それぞれの公共観を含めた多様なトピックをその場で空間に書き留める「スクライビング」の技法を用いながらのセッションも予定しています。
【ゲストプロフィール】
木下 斉 1982年東京生まれ
一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、内閣官房地域活性化伝道師。
高校時代に全国商店街による共同出資会社の初代社長に就任し、地域活性化につながる事業開発、関連省庁・企業と連携した調査研究事業を立ち上げる。このときの経験から、補助金依存と非成果主義に陥った日本のまちづくりに疑問を持ち、経営手法を用いるまちづくりを志す。現在、全国12都市のまち会社の事業開発を推進し、2009年にエリア・イノベーション・アライアンスを設立。また欧米・アジア各国でも日本のまちづくり事例紹介と連携に向けて研究者と共に活動、政策提言なども積極的に推進している。著書に『まちづくりの経営力養成講座』がある。
http://areaia.jp/
広瀬 郁 1973年東京生まれ
建築プロデューサー、株式会社トーンアンドマター代表、NPOピープル・デザイン・インスティテュート理事。
建築学を専攻後、外資系経営コンサルティングファーム、不動産企画開発会社に勤務。ホテル「CLASKA」では総合プロデュースを担当。その他、都内・上海で複数の商業施設をプロデュース。独立後は、 都市・まち・建築に関わる事業開発と空間デザインの融合を目指し、飲食店、美容サービス店などのプロデュースのほか、上海万博のパビリオンをはじめとする複数の大型商業施設のプロジェクトに参画し企画・事業推進などを手掛ける。受賞歴に「Wallpaper Design Award」「Asia Design Award」「JCD Design Award」など。著書に『建築プロデュース学入門』がある。
http://www.toneandmatter.com/
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『EDGE TOKYO DRINKS 06~「公共」を創る~』
■日 時:2013年7月19日(金)19:00開場/19:30開演(22:30終了予定)
19:30~21:30頃まで トークセッション
21:30~終了まで フリータイム
■会 場:カタリストBA(世田谷区玉川2-21-1 二子玉川ライズ・オフィス8F)
■料 金:1,000円(1ドリンク&フリーフード付)
■ゲスト:木下 斉 一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事
広瀬 郁 建築プロデューサー、株式会社トーンアンドマター代表
■定 員:100名(ご予約のお客様優先となります)
■その他:当日はUSTREAMでの放送も予定しています
ゲストの著作販売をカタリストBAにて行う予定です
今回は多様な事例やトピックを東京都市大学メディア情報学部社会メディア学科岡部研究室により
「スクライビング」という技法を用いてその場で可視化していきます
◆「EDGE TOKYO」とは
東京の境界(エッジ)である二子玉川で、「先端/周縁」を意識した、ビジネス、デザイン、アート、ポリシー(政策制度)といったさまざまなジャンルのトップランナーをゲストに招いたライブ・トークセッションやパフォーマンスを行うカタリストBA主催のイベントの総称です。
※過去の開催レポートはこちらから https://catalyst-ba.com/
※動画(youtube)http://www.youtube.com/channel/UC9TTNtfSf-AISnRGvZm4ZFg
【予約方法】
下記メールアドレスに[お名前、メールアドレス、参加人数]をお知らせください。
futako_entry@co-lab.jp 担当:中安(なかやす)、佐中(さなか)
【会場へのアクセス】
東急田園都市線/東急大井町線二子玉川駅より徒歩1分
ライズオフィス8Fまでエレベーターまたはエスカレーターでお上がりください。
地図はこちら→ https://catalyst-ba.com/access.html
※20時以降にお越しの場合は正面エントランスからお入りいただけません。
受付までお電話ください(03-6362-3443)
主催:Catalyst BA
企画協力:co-lab[http://co-lab.jp/]