REPORT (CATALYST BA)

[report]EDGE TOKYO DRINKS 03 『フィジカルなメディアの世界』

分野    

Post : 2013.01.31
Permalink : https://catalyst-ba.com/archives/1222

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2月15日に開催したEDGE TOKYO DRINKSは、EDGE TOKYOシリーズ通算5回目となります。
今回はメディアアートの領域に焦点をあて、「フィジカルなメディアの世界」というテーマで新しいメディア表現についてアイデアを共有しました。

ゲストは、メディア・アーティストでco-lab渋谷のメンバーであるクワクボリョウタさんと、デザイナーでありセイコーエプソン株式会社技術開発本部主任研究員の内堀法孝さん。
モデレータには、これまでICCやYCAMなどを経て、多くのメディアアート関連企画に携わっている株式会社ゴーライトリーの福田幹さんをお迎えしました。

まずはイントロダクションとして。
福田幹さんから、ご自身の紹介とともに『メディアアート』というものに関する考え方をお話しいただきました。
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最近一般的に定着してきたメディアアートということばは、海外ではNew Media Artといって「New」がつくことが多いそうです。実際メディアアートは非常に広範囲のことを含むのでひとことでは言い表せないが、「ニューテクノロジーを使った表現を含む新しいアート」という解釈に基づいて「New Media」といわれることが多いようです。しかし「New」だけではつまらないので、福田さんの名刺の肩書きには「Old and New Media Arts produce and management」と書かれてあります。では「Old Media」とは何かというと、たとえば写真とか絵画とか、もっと遡ると洞窟画といったものになるそうで。鉛筆と紙だけを使っていたとしても、それが現代社会の文脈においてどんな意味をもつのか、ということにフォーカスしていれば、それをメディアアートとして捉えることができるだろうとのこと。

また新しいテクノロジーが出てくる背景には、そのひとつ前のテクノロジーが参照され研究されていることがほとんどです。たとえば写真が出来て170年が経つが、それが出来た当時それはNew Technologyだったのです。写真は、その前のメディアである絵画のことを充分に研究することで、メディアとして成熟していったと考えられます。New Media Technologyというのは、Newの部分だけで出来ているのではなく、必ずOldと一緒に成立しているのだとも言えます。

そして、メディアアーティストというのは、メディアそのものをつくっていく者でもあり、その点にも非常に興味をもっていると。

メディアアートについての考察を共有したところで、ゲストによるプレゼンテーションが行われました。
まずはセイコーエプソンの内堀法孝さん。
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今回デモンストレーションとして展示していただいたのは『FU_FU_FU』という作品で、多層薄膜ディスプレイという技術を使ったものです。スクリーンの中で映像を体験してもらうということを意図してつくられました。2007年SenseWear展で展示をし、その後ミラノサローネや、学会などでも発表しました。お客さんは最初は周りから見ているだけだったが、中に入ってみると、しあわせそうに笑顔に出てくる、というのが大きな発見だった。
新しい技術や製品は作られるが、それをどう使うかということも提案していかなくてはいけない。そこにどんな新しい価値を作れるかが大事なこと。感性価値ということを研究しているが、人に笑顔と創造力を与えるのが感性価値ではないか、というアイデアをもとに研究開発を進めている。

続いてクワクボリョウタさんのプレゼンテーション。
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映像メディアとして「10番目の感傷」という作品を見たとき、時間軸も空間軸も連続性があるという点が特徴的である。映画はできたときから瞬きをしていてフレームによって分断されているが、この作品にはそれがない。そういった点で、昔あったといわれるファンタスマゴリアという、劇場空間で上映する幻灯に似ているのかもしれない。
これまでの作品と「10番目の感傷」はずいぶん違うといわれるが、作品を見た時にどこまでを作品と見なすかという問題が気になった。「ニコダマ」までの作品では、デバイスアートとして「ここは見ないでください」というブラックボックス的な部分がある作品だった。「10番目の感傷」では隠された部分がなく、全てが明らかになっているという点で、全く違った文脈の作品と言える。デバイスのノイズや作動音も全て作品に取り込んでしまうような作品に対峙すると、いくらでも感覚を研ぎすますことができると思う。
自身ではコントラストをつけながら、どちらの作品も作っていきたい。

それぞれのプレゼンテーションのあとはクロストークが行われました。
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内堀:デジタルとアナログをミックスするところで見えてくるものが非常に興味深いです。そのふたつが人間の知覚に訴えるものがある。
クワクボ:僕の作品はもともとハイテックではないんですが、影の作品をつくったとき、最初出来るだけ安く作ろうと思った。
かつてのメディアアートは機材がすごくて憧れだったのが、自分の番になったときにはそんなの無理という状況で、それでも出来るということを見せたいと思った。100均で買ってきたもので、仕組みも全部見えるけど、それでも作品として成り立つものに敢えて取組んだ。

参加者の方からの質問もありました
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Q:メディアアートが社会に貢献していけることってあるんでしょうか?
内堀:人と人を繋ぐということ。ソーシャルネットワークではなく物理的につながることができると、あたらしいコミュニケーションを生み出せるかもしれない。
クワクボ:一作家としては社会的インパクトを与えるのはほぼ不可能だけど、価値観のもんだいとして、たとえば自分があえて安いものを使って、それで見たこともないリアリティをだせるということから、見に来た人が自発的に何かを発見してくれればと思う。
もうひとつはいろいろなアート作品がある中で、自分は人がまた見たいと思えるものを作りたい。それで見に来た人が社会的な作品に触れる機会が増えれば良い。

Q:商業的なものに活用するプランはありますか?
内堀:FU_FU_FUを体験した個人の人で家に欲しいという人が多かったが、それをどうしたら良いか考えないといけない。
また公共空間に定常的に設置したときに、何ができるか、どういうシステムが作れるかということをまず考えたい。
クワクボ:年に何回かクライアントワークをいただくことがある。またデバイス傾向のもをまたやりたいと思います。

Q:メディアアート作品を製品に組み込んでいく、またはプロダクトを作っていくことは考えているか?
クワクボ:はじめた頃からそういうことがやりたかったが、今までリリースできたのは3つくらいで、全部トイです。
自分のやっていることは「あったらいい」というニッチなものなので、コスト面などにハードルがある。アホらしさとコストの交点にたどり着けば作れると思う。
アート作品と製品では価値の付け方がずいぶんちがうので、著作権の問題も含めて難しい問題がある。

Q:この場所の照明はコンピュータで制御されているが、どういう使い方ができるとおもしろいか?
クワクボ:ちらつきとか?昔実家のテレビが1階でつけるとそれが離れていてもわかったりしたが、そういう感覚を組み込めたらおもしろい。
内堀:その人の今の気分を反映できればおもしろい。落ち込んでいればそれをカバーしてくれるような。

Q:ふたりにとって技術とは何か?技術とアートを繋ぐ大事なこととは何か?
内堀:進化してハードウェアの制限が無くなり完成された技術が出来たとき、今度はそれを使う人の問題になってくる。
ツールとして技術は完成していくが、それに依存していたのでは、それ以上のものを生み出すことができない。
クワクボ:アート全体ではそんなに技術に依存することはないので、
メディアアートでいうと、わざわざ感というのは今面白い。普段高度なものばかりを使っていると、アートとしてはバカバカしいものを見たくなったり、価値観としては対局のものを欲するようになるのでは。
いま自分の生活空間でデジタルになるものはなってもらって、空いたスペースに全然デジタルじゃない気に入ったものを置きたいという願望がある。技術が発達すると相反するものが価値をもてる土壌ができる。

会場では慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 XDesign Programの作品展示もあり、みな興味深く体験していました。
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メディアを技術、アート、社会など、さまざまな視点で考える良いきっかけになったのではないでしょうか。
お越しいただいた皆様ありがとうございました。

[co-lab二子玉川主任/ナカヤス]

<以下、告知記事>
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EDGE TOKYO DRINKS 03

2月15日(金)にライブトークイベント『EDGE TOKYO DRINKS 〜フィジカルなメディアの世界〜』を開催します。

「メディア」というとテレビや新聞などのいわゆる「マスメディア」や、街中に増えてきた「デジタルサイネージ」など、四角いディスプレイや紙面を想起しがちです。その一方で、3Dプロジェクションマッピング技術などを利用し、様々な物質/表面がメディアとして機能する可能性が大きく注目を集めています。
「bit and atom(ビットとアトム=情報と物質)の融合」によって、メディアの中のコンテンツは限りなく物質と近づいており、様々な情報を映し出す媒体は生活のあらゆる場面に出現するでしょう。日常の中で五感を通じて感じる”コト”と、身の回りにある”モノ”とが融合し、わたしたちの感性に訴えかける技術の在り方とはどんなものでしょうか。
今回の『EDGE TOKYO』では、これら「フィジカルなメディア」に焦点を当て、アーティストや技術者によるトークセッションでその世界を俯瞰しつつ、これからのメディア(アート)の可能性についてアイデアを共有します。

※会場では、サントリー美術館の展示でも利用されていた、プロジェクションを使ったインスタレーション(セイコーエプソン)を再現いたします。
http://www.youtube.com/watch?v=ZMRWOAPWNyk

ゲスト:
 クワクボリョウタ(メディアアーティスト/co-lab渋谷メンバー)
 内堀法孝(セイコーエプソン株式会社技術開発本部主任研究員)

モデレーター
 福田幹(株式会社ゴーライトリー)

お申込:メールにて[お名前、所属、参加人数]をお知らせください
     futako_entry@co-lab.jp 担当:佐中(さなか)/中安(なかやす)

EDGE TOKYO DRINKS 03
2013年2月15日(金)19:30~22:00[19:00開場/受付、19:30スタート]
会場:カタリストBA(世田谷区玉川2-21-1 二子玉川ライズオフィス8F)
入場料:1,000円(1ドリンク付き)  定員:100名
アクセス:東急田園都市線/東急大井町線二子玉川駅より徒歩1分 ライズオフィス8F
     こちらを参照ください→https://catalyst-ba.com/access
     夜8時以降にお越しの場合は正面エントランスからお入りいただけません。
     受付までお電話ください。[03-6362-3443]
主催:Catalyst BA
企画/協力:co-lab

※セッション終了後には慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 エクス・デザインプログラム(XDesign)のショートプレゼンテーションと作品展示も予定しております。

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【プロフィール】

クワクボリョウタ Ryota Kuwakubo(メディアアーティスト/co-lab渋谷メンバー)
1971年生まれ。筑波大学大学院修士課程デザイン研究科総合造形/国際情報科学アカデミー卒。98年に明和電機との共作「ビットマン」を制作し、エレクトロニクスを使用した作品制作活動を開始。ガジェットの体裁をとって、デジタルとアナログ、人間と機械、情報の送り手と受け手など、さまざまな境界線上で生じる現象をクローズアップする作品によって、「デバイス・アート」とも呼ばれる独自のスタイルを生み出した。2002年、03年にアルス・エレクトロニカで入選。03年に文化庁メディア芸術祭アート部門で大賞、10年に同優秀賞を受賞。また、11年に芸術選奨新人賞を受賞。代表作に「ビデオバルブ」、「PLX」や、Sony CSLに開発参加した「ブロックジャム」、「ニコダマ」、インスタレーション作品「10番目の感傷(点・線・面)」などがある。
http://www.vector-scan.com/
EDGE TOKYO DRINKS 03
クワクボリョウタ『10番目の感傷(点・線・面)』 (2011年8月4日 co-lab二子玉川オープニングにて)

内堀法孝 Noritaka UCHIBORI(セイコーエプソン株式会社技術開発本部主任研究員)
1957年三重県鳥羽市生まれ。1979年金沢美術工芸大美術工芸学部産業学科ID専攻卒、同年諏訪精工舎(現セイコーエプソン株式会社)入社。ウォッチ、情報機器、CIデザイン、地場産業向けデザインおよびデザインマネージメント。‘98年冬季オリンピックメダルデザインディレクション等担当。1985デザインフォーラム銅賞、独IF賞、グッドデザイン賞等受賞、ニューヨーク近代美術館永久保存選定。現在 同社技術開発本部にて映像画像表現からの商品開発を担当。日本グラフィックデザイナー協会会員、感性工学会工業デザイン部会、画像工学会感性部会員。
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福田幹(Miki FUKUDA)
株式会社ゴーライトリー代表。1990年代初頭、NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]の基本構想に関わったことをきっかけに、さまざまなメディア・アート/カルチャーに関する展覧会等のイベントの企画制作、編集等をおこなう。2000年代には、日本科学未来館、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)、山口情報芸術センター[YCAM]に勤務。これらの文化施設において、藤幡正樹、ラファエル・ロサノ=ヘメル、大友良英などの新作の制作マネージメントを行う。2009年、展覧会、シンポジウム、ワークショップ等の企画制作を行うゴーライトリーを設立。
http://www.go-lightly.org

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慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 エクス・デザインプログラム(XD)
慶應SFCは創立以来、情報技術と社会の関わりをリードする実験的な教育研究機関として社会的な評価を受けており、大学院政策・メディア研究科エクス・デザイン(XD)プログラムは、情報技術を基盤とする「幅広い視野のネットワーク・デザイン」と「価値創出のためのパーソナル・デザイン」を同時に進める場として活動を行っています。ここでは「クリエイティヴ・マインド」を研究の基本的な推進力・原動力として持続しながら、開発力と表現力、技法(テクニック)と技術(テクノロジー)、科学的理性と芸術的感性、論理(ロジック)と倫理(エシック)、作り手側の価値観と使い手側の価値観などの分断された各要素を再び包摂・統合し、具現化することのできる、ハイブリッドな素養を持つエキスパートの育成を目指しています。

[co-lab二子玉川主任/ナカヤス]

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